11月7日

 沖縄在住の作家・恒川恒太郎さんの作品に「秋の牢獄」という小説がある。何故かわからぬまま来る日も来る日も11月7日を繰り返すことになってしまった人々の話である。何やっても次の日の朝にはすべてがリセットされて11月7日がやって来る。ある人はおいしいものを食べまくり、又はぜいたく旅行のし放題、片や恨みをはらすことに明け暮れる人もいるが、何をしてもそれはその日限りのことなのである。これは「牢獄」に違いない。

 この話を読んだ時、高級有料老人ホームの話を思い出した。好きな食事が選べる豪華なレストラン。趣味が楽しめるように用意された、さまざまなクラブ。「それでも利用者の方は満足されないのです」と支配人は言う。

「皆さん、次はおっしゃるのです、人の役に立つことがしたい、と」。これを聞いた時、人間の本質に突き当たった思いだった。「誰かの役に立ちたい」こう願った時、人は11月8日に進むことが出来るのかもしれない。