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お父さんの負け

 深い深い森の始まりの地で、9歳の少女トリシアの試合は開始された。ボストン・レッドソックスのリリーフ・ピッチャー、トム・ゴードンとの空想での会話だけを心の支えにして原野からの脱出を試みようとする9日間にわたる少女の決死の冒険を描いたスティーブン・キングの小説「トム・ゴードンに恋した少女」を思い出した、7歳の少年の遭難騒動だった。少年は6日間何を考えて過ごしていたのだろう。

 ニュースで知るところでは、心身共に比較的元気で発見されたということだから、かなりの気丈さだと舌を巻く。愛情を持って育ててきたとおっしゃるのは本当だろうと思うので、予想外の大ごとになってしまったのは気の毒だったが、この試合、お父さんの負け。

 しつけのために置き去りにした、という第一報を聞いた時、「その気持ちわかるなぁ」と私は思ったし、我が身を振り返った親御さんも多かったはず。少年とお父さんの生涯の笑い話になってほしい。

                                            (沖縄タイムス くさぐさ:2016.6.14)